焙煎を味わう一日。「ROAST CONNECT」で出会ったコーヒーの深さ

2026年7月18日(土)、サザコーヒーロースター主催のイベント「ROAST CONNECT」に参加してきた。

会場は、東京・南青山、青山公園のほど近くにあるLittle Darling Coffee Roasters。今回は、東広島のomeme coffeeで焙煎士をされている戸田さんに誘っていただき、同行することになった。

テーマは、ずばり“焙煎”。
コーヒーのイベントといってもいろいろあるが、焙煎そのものに焦点を当てたイベントはかなりニッチだと思う。普段から戸田さんに、焙煎の緻密な違いが味に大きく影響することを聞いていたこともあり、「果たして自分に理解できるだろうか」と少し緊張しながらも、コーヒーへの理解を深められるかもしれないという期待に胸がふくらんでいた。

「ROAST CONNECT」は、“焙煎と生豆への理解を深める”ことをテーマに開催され、同一の生豆を異なる焙煎機・焙煎プロファイルで焼き分け、実際にカッピングしながら違いを体験できるイベントだ。今回はケニア・ウォッシュドのニュークロップが使用され、初心者から経験豊富なロースターまでが学べる場として企画されていた。

会場に着くと、普段はLittle Darling Coffee Roastersのカフェスペースとなっている広々とした店内の大半の席が取り払われ、この日のための特設会場になっていた。受付を済ませて中で涼んでいると、サザコーヒー株式会社代表の鈴木太郎氏が自らコーヒーを振る舞っている。ウェルカムドリンクとしていただいたのは、ケニヤ産のAA GATOMBOYA W。すっきりとした酸味に、ほのかな甘さが寄り添う味わいで、梅雨明け後の暑さの残る空気の中でも、すっと心地よく飲める一杯だった。

イベント開始時刻になると、参加者たちはプロジェクター前に並べられた席へと移動し、鈴木氏のあいさつから会が始まった。続いて登場したのが、ジャパンコーヒーロースティングチャンピオンシップ(JCRC)2024年チャンピオンの大貫健晴氏(MOOD coffee&espresso)。また、会の後半には、ジャパンバリスタチャンピオンシップ(JBC)2022年第2位の安 優希氏(SAZA COFFEE)も参加し、焙煎や品質評価についての知見が共有された。

なかでも印象に残ったのは、大貫氏の「人それぞれ好みがあるからこそ、自分の好きな味をどう追求するかが大事」という話だった。焙煎の話ではあるのだけれど、それは単に技術論にとどまらず、個人としての楽しみ方にも、店としての個性づくりにも通じる言葉に思えた。コーヒーに限らず、ものごとを深めていくうえで大切な考え方のようにも感じられ、強く心に残った。

続く鈴木氏による事業紹介やコーヒー豆の基礎知識の解説も、とても面白かった。スライドには写真がふんだんに使われ、時間の都合でかなり凝縮されていた印象はあったものの、「もっと掘り下げて聞きたい」と思う話題が次々と出てくる。難しくなりすぎず、フランクで親しみのある語り口も心地よく、聞いているこちらも自然とうなずいたり、笑ったりしながら引き込まれていった。特に、コーヒーの基礎知識や科学的な論拠を交えた説明は、初心者の私にとって非常にありがたく、このあとの体験への導入としてもぴったりだった。

その後は、焙煎機3製品の販売代理店による製品説明と、豆の個包装機の紹介が行われた。会場にはAillio、LINK、ROESTといった小型焙煎機メーカー代理店も参加しており、イベント限定の成約特典が用意されている製品もあったため、導入を検討している人にとっては、実機の比較や担当者から直接話を聞ける貴重な機会だったと思う。

各製品の説明後に入る鈴木氏の質問や感想も興味深かった。実際に使っているからこその視点での補足が多く、来場者にとっては理解がさらに深まり、製品の説得力も増していたように感じる。中でも印象的だったのは、R&D ESPRESSO LABの方の話だ。世界的には、生豆そのものへの関心は高くても、焙煎は大手サプライヤーが工場で一括して担うことが多いという。一方、日本では店舗や企業ごとに焙煎レシピを持ち、小〜中型の焙煎機を使って稼働しているケースが多く、ここまで焙煎への関心が高い国は珍しいのだそうだ。その話を聞いて、「なるほど」と深くうなずいた。食においても個性を重視する日本の文化が、コーヒーの現場にも表れているのかもしれない。そしてその恩恵を、消費者として味わえる私たちは、じつはとても豊かな環境にいるのだと思った。

講演の途中でふと会場内を見渡すと、始まった頃よりも人がぐっと増えていた。Little Darling Coffee Roastersの広い店内に、気づけばたくさんの人が集まり、それぞれ真剣な表情で話を聞いている。今回が第1回の開催であり、主催者自身も“焙煎というニッチなテーマ”だと話していたが、この来場者数そのものが、関心の高さを物語っているようだった。

1時間半ほどのプログラムが終わると、会場はカッピングの準備へと移っていく。席が取り払われ、次々とカップが並べられていく様子に、場の空気も少しずつ実践モードへ変わっていった。抽出を担当していた安 優希バリスタの所作は美しく、それだけで味への期待が高まる。私はSCAJのようなイベントに足を運んだことはあっても、カッピングそのものは今回が初めて。戸田さんにやり方を教わりながら、周囲の参加者の動きをじっと見て、見よう見まねで挑戦してみた。

最初にカッピングしたのは、サザコーヒーで扱っている定番商品。はじめのうちは手順に気を取られ、味に集中する余裕があまりなかったのだが、いくつか試していくうちに徐々に感覚がつかめてきた。同行者同士で「これが好き」「これはチョコに合いそう」と感想を言い合う時間もまた楽しい。自分ひとりの味覚だけでは見逃してしまう印象も、誰かの一言で輪郭を持ちはじめる。その“答え合わせ”のような時間も、カッピングの醍醐味なのだと感じた。

次に用意されたのは、サザコーヒーのオンラインショップで限定販売されているGeisha8種のカッピング。どれも“Geisha”という共通の名前を持ちながら、その味わいは驚くほど異なっていた。華やかさの出方、質感、余韻、それぞれに個性があり、同じ品種名では括れない豊かさがある。パナマ産ゲイシャといえば高級豆の代名詞のような存在だが、それをこれだけ比較しながら味わえる機会はそう多くないはずだ。カッピングとはいえ、参加費を考えると、十分すぎるほどの満足感があった。

そして、今回の目玉でもある、ケニヤ産の同一豆を各焙煎機で焼き分けた飲み比べへ。各ブースで焙煎を分けた複数のサンプルが提供されていたのだが、これが本当に面白い。同じ豆のはずなのに、驚くほど味わいが違う。豆の品種や精製だけでなく、焙煎、熟成、抽出によって味が変わることは、コーヒーに詳しい人にとっては当たり前のことなのかもしれない。でも、実際に並べて飲み比べてみると、その差は知識として理解するのとはまったく別の感動がある。口にした瞬間、「こんなに変わるのか」と素直に驚いてしまう。コーヒー沼は深い、とよく言うけれど、その言葉の意味をあらためて体感した時間だった。

だからこそ、コーヒーは人を惹きつけるのだろう。知れば知るほど見える景色が増え、味わうたびに新しい発見がある。深さがあるからこそ、入り口もまたいくつもある。焙煎から入る人もいれば、抽出、産地、品種、喫茶店文化から入る人もいる。そのどこからでも、楽しみながら潜っていける世界なのだと感じた。

さらにうれしかったのは、来場者全員にケニヤ産の生豆200gがプレゼントされたことだ。鈴木氏自らパッケージにすくってくださり、その場でイベントの感想とお礼を伝えることができた。朗らかで気さくな応対に触れ、「また次も来たい」と自然に思えたのも、このイベントの魅力の一部だったように思う。コーヒーの知識や技術だけでなく、それを支える人の温度まで伝わってくる。そんな場は、きっと記憶に残る。

焙煎という、一見するととても専門的で閉じた世界のように思えるテーマでありながら、この日の会場にあった空気は驚くほどひらかれていた。知識や技術を披露するだけではなく、「好きな味を追いかけていい」「違いを知ることを楽しんでいい」と背中を押してくれるような時間だったように思う。

同じ豆でも、焙煎機が違えば味が変わる。焙煎プロファイルが違えば印象が変わる。さらにそこへ、抽出や飲み手の感覚まで重なってくる。そんなコーヒーの奥行きを、頭だけでなく舌と会話の中で体感できたことが、このイベントのいちばんの魅力だった。

焙煎の世界は深く、簡単にわかった気にはなれない。けれど、わからないからこそ面白く、違いに触れるたびにもっと知りたくなる。今回の「ROAST CONNECT」は、そんなコーヒーの深さと楽しさを、初心者にも経験者にも等しく手渡してくれる場だった。

帰り際にいただいた200gのケニヤの生豆を手にしながら、イベントの余韻とともに、また次も参加したいと自然に思えた。コーヒーを味わうことの先に、人と人とのつながりや、探究するよろこびまで感じさせてくれる。そんな一日だった。

イベント概要|ROAST CONNECT
「ROAST CONNECT」は、サザコーヒーロースターが2026年7月18日(土)に東京・南青山のLittle Darling Coffee Roasters内で開催した、焙煎と生豆への理解を深めることをテーマにしたイベントです。会場では、Aillio、LINK、ROESTなどの小型焙煎機メーカー代理店の協力のもと、同一のケニア・ウォッシュドのニュークロップを異なる焙煎機・焙煎プロファイルで焼き分け、参加者が実際にカッピングしながら味わいの違いを比較できる内容が用意されました。さらに、JCRC 2024年チャンピオンの大貫健晴氏、JBC 2022年第2位の安 優希氏も参加し、焙煎や品質評価についての知見を共有。展示や交流スペースも設けられ、初心者から経験豊富なロースターまで学びとネットワーキングを楽しめる場となりました。
サザコーヒー概要|SAZA COFFEE
サザコーヒーは、1942年設立を源流に持ち、1969年に珈琲店「且座(サザ)コーヒー店」を開業、1991年に「株式会社サザコーヒー」へ社名変更したコーヒー企業です。茨城県ひたちなか市を拠点に、喫茶・飲食・菓子製造・店舗運営を手がけるほか、ロースター部門ではコロンビアの自社農園の運営、コーヒー豆の輸入、焙煎加工、卸売販売などを一貫して行っています。生産から焙煎、提供までをつなぐ姿勢が特徴で、世界各地から調達した高品質なコーヒーを軸に、コーヒー文化の発信にも力を入れています。
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