東広島・トムミルクファームでふれる命のぬくもり

とある六月の朝、寺家駅からomemeスタッフとotogibanashi編集部を含めた六人で車に乗り込み、東広島のトムミルクファームへ向かった。県道350号を北上していく道すがら、窓の外には青々とした田園風景が広がっていた。街の気配と自然の豊かさがゆるやかに溶け合っていて、その景色を眺めているだけで朝からどこか気分がよくなる。

開園前のトムミルクファームに到着すると、すでに家族連れの一行でにぎわっていた。

大草原の中には等身大の牛のマスコットが立ち、こちらを出迎えてくれる。さらに周囲を見渡すと、ロッジの一部や分電盤にまで牛柄のペイントが施されていて、牧場に来たというより、どこか小さなアミューズメントパークに足を踏み入れたような気分になる。こういう遊び心のある風景に、自然と胸が弾んだ。

まず入ったのは、二階建てのロッジ「ファーマーズマーケット 十夢」。中では牧場体験学習の受付が行われていて、予約者が手続きをしていた。乳しぼりやバターづくりなどの体験もできるそうで、スケジュールはInstagramなどで案内されているという。牧場をただ“見る”だけでなく、実際に手を動かしてその営みにふれられるのも、この場所の魅力なのだろう。

お土産や牛乳が並ぶ冷蔵庫、色とりどりのジェラートにも心をひかれつつ、私たちはさっそく人数分のソフトクリームを購入し、テラスでほおばった。

搾りたての新鮮なミルクを100%使用したソフトクリームは、濃厚なコクと自然な甘さが印象的だった。しっかり甘いのに後味はすっきりとしていて、もうひと口、もうひと口と食べ進めたくなる。添えられた牛型のビスコッティも上品な甘さで、朝食を食べたあとだというのに、するすると入ってしまう。

神の倉山の、雲のかかる山なみを眺めながら味わう濃厚なソフトクリームは格別だった。おいしい、という言葉だけでは足りない。その土地の風景ごと味わっているような気がした。

食べ終えたあとは、園内を少し歩いてみることにした。ゆるやかな勾配をのぼっていくと、馬舎のような建物の手前に靴底の洗い場がある。動物にえさやりができるとのことで、まずは丁寧に靴底を消毒する。こうしたひと手間にも、動物たちと人とが気持ちよく同じ場所を過ごすための配慮が感じられた。

その先には、ヤギ、ヒツジ、ポニー、ロバ、ウサギたち。みな「えさをちょうだい」と言わんばかりに身を乗り出して迎えてくれる。そういえば、こんなに近い距離で動物とふれあうのは二十年ぶりくらいかもしれない。東京では、ここまで気軽に動物にえさをあげられる場所は意外と少ない気がする。最後にこうした体験をしたのが千葉の東京ドイツ村だったか、マザー牧場だったかも、もうはっきり思い出せない。

ガチャガチャでえさを買い、みんなで給餌体験をしてみる。

「かまれそうで怖い!」
「手なめられた!」
「メ~っていってる!」

そんな声を上げながら、みんなすっかり童心に返っていた。生の動物たちの気迫に圧倒されつつも、その場にいる誰もが笑っていて、気づけばどんどん“えさ入りガチャガチャ”に課金していく。

まんべんなくそれぞれの子に平等にあげる人もいれば、一頭の子にひたすら手持ちのえさを与える人もいる。えさをあげる側の性格まで、なんとなく見えてくるのがおもしろかった。

ひととおりえさやりを終え、さらに園内の勾配をのぼっていくと、今度は広大な牛舎が現れた。

子牛は落ち着きのない様子でこちらを見ている。人に慣れているようで、そのそぶりがなんとも愛らしい。けれど隣の牛舎に目を向けると、干し草を食べる牝牛や、出産を控えて身を横たえている牝牛たちの存在感は、先ほどの子牛やポニーたちとはまるで違っていた。圧倒的な大きさと、静かな迫力がある。

一日に二十リットル、多い個体では五十リットルもの牛乳を出すこともあるそうだ。普段それほど大きな動物を見慣れていないこともあり、その体格にはただただ圧倒される。私は毎日、家で牛乳をカフェオレにして飲んでいるからこそ、彼女たちへの感謝の気持ちが自然と湧いてきた。

大きな体でゆっくりと動く牛たちを見ていると、こちらの呼吸までゆるんでいくようだった。せわしない日常の中では、何かをこんなふうにじっと見つめる時間は案外少ない。だからこそ、ただ牛たちを眺めているだけの時間が、思いのほか豊かに感じられた。

長いこと牛を観察したあと、「ファーマーズマーケット 十夢」へ戻り、それぞれ思い思いに土産品を物色する。私が購入したのは、200mlの牛乳「十夢ミルク」だった。

健康な乳牛から搾った乳を低温殺菌しているというこの牛乳は、飲んでみるとコクがあり、ほんのり甘い。市販の牛乳と比べると、舌触りもわずかにもったりしているように感じられ、乳そのものの厚みが伝わってくる。シンプルな飲みものなのに、こんなにも印象が違うのかと驚いた。

東広島のomeme カフェでは、カフェラテやココアラテやジェラートにこの「十夢ミルク」を使用しているという。牧場で味わった記憶を、街の中でもまた別のかたちで思い出せるのはうれしいことだ。

さらに、連れ合いからおすそ分けでもらった「十夢ミルクファームの生キャラメル プレーン味」も印象的だった。ミルクの風味が濃厚でありながら、苦みは少なく、口どけはまろやか。やさしくほどけていく甘さに、牧場の恵みがそのまま閉じ込められているようだった。

「まきばカフェ」ではランチも食べられると知り、後ろ髪をひかれながらも、私たちは次の予定のため車に乗り込んだ。

動物とふれあい、その命の気配を間近に感じること。
そして、そこから生まれる恵みをいただくこと。

動物とふれあい、恵みをいただく。言葉にすると当たり前のことのようでいて、その距離の近さを実感する機会は、日々の暮らしの中ではそう多くない。トムミルクファームで過ごした朝は、食べることの向こう側にある命の気配を、そっと思い出させてくれる時間だった。

トムミルクファーム
住所:広島県東広島市豊栄町乃美1083-5
電話番号:082-420-3323
営業時間:10:00〜17:00
定休日:火曜・水曜(祝日は営業)
入園料:無料
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