~おいしい!を絵筆にのせて~VOL.1 尾道本通り商店街

私は上手ではないけれど、絵を描くことが好きだ。時間があるとき、ふとiPadを開いては、日常のなかで記憶に残った出来事を絵日記のように描いてみることがある。

表現するだけならAIでもいいのでは、と思う人もいるかもしれない。けれど、自分の手を動かすこと、その時間ごと味わうことに、私にとっての楽しさがある。以前アパレルの仕事をしていた頃は、業務として日々ペンを動かしていた時期もあった。転職した今では、気楽に描くだけの道楽になったけれど、それでも時折、どうしても何かを描きたくなる瞬間がある。

今回、ちょうどその“描きたい熱”が高まっていたタイミングで、otogibanashiというメディアに関わらせてもらえていることが、なんだかとてもありがたく感じた。絵筆ではなくiPadペンシルではあるけれど、美味しくて幸せな時間を、手前味噌ながらイラストという表現で切り取って紹介してみたいと思う。

2月上旬、初めて尾道を訪れた。尾道本通り商店街を歩きはじめたのは、ちょうど昼どき。週末ということもあり、目に入るのは店先の行列、また歩けば行列、とにかく人の流れが絶えない。しかも、あちこちに「尾道ラーメン」の文字。普段は行列店を避けがちな私も、初めての土地となると話は別で、自然と気持ちがそちらへ引っ張られていった。

もともと尾道ラーメンを食べるつもりで候補は二店舗に絞っていて、それぞれの行列の様子を見に行き、その日の自分の“舌の気分”を確認したうえで、最終的に「めん処 みやち」の最後尾に加わった。町中華のような、どこか親しみのある外観。

店先にはひときわ目を引くポスターが貼られていて、店主のお孫さんが書いたのだろうか、かわいらしい文字と内容に思わず頬がゆるむ。そんなふうに眺めているうちに、順番はあっという間にやってきた。

中華そばを注文し、アットホームな店内をきょろきょろ眺めていると、ほどなくして一杯が運ばれてくる。脂は控えめで、澄んだスープから立ちのぼる湯気がなんとも食欲をそそる。まずはスープをひと口。魚介だしのあっさりとした口当たりなのに、旨みはしっかり深い。細麺との相性もよく、気づけばするすると箸が進んでしまう。営む大将と女将さんのやさしい空気も相まって、身体にも心にもやさしい一軒だった。

めん処 みやち
住所:広島県尾道市土堂1-6-22
電話:0848-25-3550
営業時間:11:00~18:00
定休日:木曜日・第2水曜日

その後も商店街をぶらぶら歩きながら、足を止めては物色する。目に留まるのは、さつま揚げや練り物の店先だ。

せっかく尾道まで来たのだから、もう少し何か食べたい。そんなお腹の空き具合のまま「桂馬蒲鉾商店」で気になった練り物をいくつか頼んでみた。

販売スペースの向かいにイートインがあるとのことで、日本酒もあわせて注文し、案内されるまま腰を下ろす。すると女将さんが、頼んだ練り物を立派な皿に美しく盛り付けて運んできてくれた。日本酒も目の前でボトルから徳利に注いでくれて、その所作まで気持ちがいい。空間の雰囲気も相まって、ほんのひととき旅館の夕餉に招かれたような心持ちになる。

化学調味料不使用の練り物は、どれも口当たりがやさしく、脂っこさがない。それでいて魚の味わいがしっかり感じられ、つい日本酒が進んでしまう。なかでも、桂馬の印字が入った「駒焼」は、ふんわりとした食感とほのかな甘みが印象的で、特におすすめしたいひと品だった。この日は「美穂」「雨後の月」「心酔」を一合ずつ注文し、四人で少しずつシェアしたのだけれど、昼下がりに酌み交わす酒というのは、どうしてこうも贅沢なのだろうと思う。イートインスペースにトースターが置かれているのも、ちょっと嬉しいポイントだった。

桂馬蒲鉾商店
住所:広島県尾道市土堂1-9-3
電話:0848-25-2490
営業時間:9:00~17:00
定休日:木曜日

お腹も満たされたあとは、腹ごなしに尾道の町を散策した。

海を見たり、雑貨や土産をのぞいたり、路地の風景に足を止めたり。

その途中で出会った猫たちのことは、また別の記事に記している。

日が沈む頃、予約していた「高原誠吉食堂」へ向かう。古民家を改装した店内は落ち着いた雰囲気で、暖色の照明が心地よい。席に着き、「店主のお任せコース」と、コースに含まれる飲み放題でまずはビールを注文した。ビールを傾けながらカウンター越しに調理の手元を眺めていると、一品一品、おばんざいの小鉢が運ばれてくる。

私は、食事を急いで平らげるよりも、ゆっくりつまみながら酒を飲む時間が好きなので、この小鉢の続く構成がとても嬉しかった。なかでもまず感動したのが、お造りの甘えびと赤貝の新鮮さと甘さ。炙り帆立にレモンをきゅっと絞り、藻塩を軽くつけて頬張る瞬間もたまらない。しかも、それらがオープンキッチンで軽やかに捌かれていく様子を目にしているからこそ、なおさら美味しく感じられる。上品で手の込んだ五、六品の小鉢をつまみ、締めの炊き込みご飯とデザートにたどり着く頃には、皆すっかり上機嫌。美味しい食事と酒に気持ちがほどけて、会話も自然と弾んでいた。

高原誠吉食堂
住所:広島県尾道市土堂2-2-19
電話:0848-24-6880
営業時間:17:00~22:00
定休日:月曜日

初めての尾道で味わった一日は、食の面から見ても実に充実していた。海と山に囲まれた町だからこそ育まれてきた食材の豊富さもこの街の雰囲気を作っているのではないだろうか。尾道には、まだまだ知らない名店がたくさんあるのだろう。そう思うと、また歩きに来たい気持ちが強くなる。美味しい記憶は、きっとまた次の一枚を描かせてくれる。

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