カルチャーの交差する『ヲルガン座』

広島市の十日市を歩いていると、路面電車の音が近くでずっとしている。車のタイヤが舗装道路をすべる音も混じって、町はとても賑やかで明るい。その中に、レトロな赤レンガ調の外観をしたヲルガン座の建物が立っている。

まわりのビルや道路はすっきり今の景色なのに、この建物だけ少し質感が違う。壁の赤茶色は乾いた感じで、近くで見るとちゃんと古い建物の手ざわりがある。”丸山フンムキ”とうっすら残っている看板も文字も建物の歴史を感じさせられて大変魅力的だ。この日はイベントで貸し切りになっていて、2階の音楽喫茶ヲルガン座の中までは入れなかった。でも、ここがただの飲食店じゃないことは外からでも伝わってくる。

踊り場に貼られたたくさんのフライヤーや書初めはサブカルチャーがふんだんに詰めっていることを感じさせられて、見ながら階段を昇っていく度に圧倒的な情報量にどれを見たらいいのかときょろきょろしてしまう。ホームページで見ていたレトロで絢爛豪華なヲルガン座の内装や食事をできなかったのは残念だが、上に進んでいく。

3階には鳩をモチーフにした演芸場”鳩小屋”とフランスをモチーフにしたステージ付きのレンタルスペース”ふらんす座”があり、廊下の粗目の板間に、学校のような昭和の黒板に、使い古されたトルソー、吊るされたドライフラワー、どれも突飛なのだけれど空間としてなぜかバランスが取れていてアートを感じさせる。

今回の目的は、4階の廃墟ギャラリーで開かれていた宝生美屑さんの「フェチズム展覧会」だった。

4階はモルタルとコンクリートがむき出しで、壁や床に少し煤けたような跡が残っている。廃墟といっても怖い感じではなくて、時間がそのまま置いてあるような静けさがある。光の入り方もきれいだった。強すぎず暗すぎず、壁のざらつきや床の色がちゃんと見える。

私はアパレルの仕事で撮影用のスタジオを借りることがあったし、こういう古い空間で撮ったこともあるので、窓からの光や角の影の出方を見ているだけでも楽しかった。写真を撮る人にとっては、画角を探す時間そのものがいい場所だと思う。

その空間に、宝生さんの耽美な女の子のアートワークや、ビーズのアクセサリー、ファッションの要素がよく合っていた。かわいいだけではなくて、少し湿り気のある雰囲気がこの場所になじんでいたのが印象に残っている。けれど展示そのものは閉じた感じではなく、迎えてくれたスタッフの方たちはやわらかくて親切だった。古い建物の中に、表現する人や見に来る人がちゃんと集まっている。その感じが、ヲルガン座らしさなのかもしれないと思った。

ヲルガン座は、2階、3階、4階でそれぞれ違う文化が同じ建物の中に入っているところが面白い。音楽もあって、展示もあって、食べる場所もある。古い建物の中にいろいろな顔を持っていて、各階で広島のいろいろなカルチャーが、ひとつの縦長のビルの中で交差している場所なんだと思う。
日によってまったく違う催しが開かれることも含めて、このビルには“知らない広島”がまだたくさん詰まっていると思うと、今後も毎回訪れるたびに違う顔を見せるスポットとして注目していきたい。

ライター:渡辺治人

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